身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
愛になる日

 「嘘を吐いたつもりはなかったのよ。閑とはきっと付き合うことになるって自信があったから……あの時は。そうしたら嘘も本当になるって。けど琴音に邪魔されたらって思うと……」

 図書館で遭遇した後、可乃子が閑と付き合っていると言った。その言葉が丸々嘘だった。そのことにまず、琴音は呆然とした。

 子供の頃から閑のことが好きだった可乃子は、受験の頃に塾で閑と再会してから、ずっとアピールを続けていたらしい。
 けれど、中々閑が自分を意識しない。焦り始めた時に、琴音との遭遇があった。可乃子は、ちょっとした計算程度のつもりだったらしい。閑にも、琴音と一緒にいた男子高校生が彼氏だと嘘をついていた。

「だけど結局閑は全然いつまでも友達扱いのままだし、私から告白するのも癪で。今の会社に入って仕事が面白くなった頃に、諦めたの。だから琴音には『別れた』って言った」

 それで全部、自分が吐いたくだらない嘘もなかったことになると思ったらしい。
 琴音は、なんと言えばいいのか、ただ聞いていることしか出来なかった。動機は、プライドの高い可乃子らしい。けれども、とった手段は可乃子のものとは思えないほど浅はかなもので。それほど、閑のことが好きだったのかもしれない、とちらりと思う。

 閑も、呆気に取られているようだった。琴音がひとりがけのソファに座っているため、閑は琴音の目の前に膝を突いたままだ。傍を離れるわけにはいかないと思ってくれているらしい。

「ふたりが結婚するって聞いた時に、自分が昔吐いた嘘が露見するかもしれないって思って……それで、琴音に、あれは誰にも言わないでって、お願いしようと思って。もう十年も前のことだし、気にしてはいなくても……嘘を吐いたと思われたくなくて」
「……気にしないわけないだろう!」

 ここで、閑がキレた。

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