身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
初めて聞く閑の大きく荒げた声に、びくっと肩が震えた。可乃子も驚いて目を見開いている。
琴音の肩を抱く閑の手が一度ぐっと強くなって、それから大きく息を吐きながら緩められる。感情を堪えて、押し殺すような様子だが、怒りを殺したわけではなかったようだ。
「……自分の姉と付き合ってた男と結婚させられて、気にしないわけないだろう!」
地を這うような低い声に、それが向けられたわけではない琴音でも震えあがる。閑がこれほど怒りをあらわにするとは思わず、琴音は黙っているしかできなかった。
可乃子の方を見れば、完全に怯えた目になっている。泣き出しそう、というよりは顔色が青ざめていて、それでも何か言わなければと思ったのか声を絞り出した。
「だから……! 私だって、もしかしたら気にしてるのかと思って。……琴音にはちゃんと言わなきゃと思ったから、会おうとしてたのよ! メッセージじゃもし怒って連絡絶たれたらどうしようもなくなるし、どうにかして会いたくて……」
「それで俺に連絡してきて? 普通の幼馴染ならともかく、琴音は元々関係があったと思っていたなら、それを知ったらどう思うかくらいわかるだろう!」
「もう何年前のことだし、もし本当だったとしても気にするほどのことでもない……」
「本気でそう思ってるのか」
可乃子の言葉を遮った閑に、可乃子がついに黙り込む。見上げると、可乃子をまっすぐ見据える閑の目は氷を思わせるほどに冷ややかだ。