身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
「……誘うような意図を感じたことはある。ただ、可乃子も何も言わなかったし、俺もわざわざ聞くこともしないままだったからな」
「そっか……」
「気になるか?」
閑が気遣うような視線を向けて、琴音の手を握った。気にならないと言えば嘘になる。けれど、琴音にとっては今更だ。
「ずっと、恋人だったんだと思ってたから。それよりは」
「可乃子は多分、俺を好きだったわけではないんじゃないかと思う」
「え?」
「染谷の両親の手前、何事にも姉らしくと求められていたからな。琴音に負けられない、って感情が強くなったんだろう。可乃子は気付いてないかもしれないが」
閑の指摘を受けて、それが正解のような気がした。何しろ、可乃子自身が琴音に言ったのだ。『琴音は閑のことになるとムキになる』と。それは、可乃子自身のことでもあったんじゃないだろうか。
「ごめんね、なんか……十年以上かかった姉妹喧嘩に巻き込んじゃったみたい」
琴音がそう言うと、閑が苦笑いをした。
「長いな」
「長いね。お姉ちゃん、本当は優しいし面倒見の良いところもあるんだよ」
「ああ、わかってるよ」