身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
優しい閑の声に、琴音は笑おうとして少し失敗した。ぽろりと涙が零れて、閑が椅子から立ちあがりベッドの上に腰を下ろした。
「琴音」
「ふ……」
何の涙なのか、琴音にもよくわからない。可乃子に嘘を吐かれていたことが哀しいのかもしれないし、可乃子と閑が恋人なんかじゃなかったことが嬉しいのかもしれないし、可乃子の知らない、弱い一面を見た気がしたことになのかもしれない。
泣き出した琴音の頭を、閑がだまって抱き寄せる。腕の中に抱えたままで、指で琴音の涙を拭うが、まったくきりがない。
顎を持ち上げ、ぽろぽろ零れる涙を一粒一粒、唇で受け止めた。
なんて甘い仕草だろう、と思うと恥ずかしくて仕方がないが、涙はなかなか止まってくれない。
「そんなことされたらもっと泣けてくる」
「そうか、困ったな」
全然困った調子に聞こえず、琴音は泣きながら笑った。
「やっと笑ったな」
「だって、それちょっと擽ったい」
目尻に涙が滲むたびに、閑は零れる前から唇や舌をあててくる。きりがないからもういいと、顔を傾けて笑いながら閑の唇を避けようとしたときだった。