身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 ……ひどい顔。顔色ではなく……顔⁉

 そう言えば、今日は一度もメイク直しもしていない。いや、それほど崩れてはいないけど……オフィスはエアコンで乾燥していて、春先の気候で少し汗ばんだりもした。

 え、そんなに崩れてる? 見るに堪えないくらいってこと?

「い、いってきます!」

 慌てて背を向けて、リビングを出る。後ろから閑に何か声をかけられた気がしたけれど、耳を傾ける余裕もなく寝室に寄って部屋着を手に取ると浴室に急いだ。
 
 顔がひどい。
 もう少し言い方がなかっただろうかと思う。実際には、洗面台の鏡で見てみたがそれほどでもないように思える。

 鏡に顔を近づけてみれば、さすがに崩れているのはわかるが。

「……そんなにひどくはない、よね?」

 まあ、直しをしてないのでリップカラーも落ちてしまっているし眉尻もぼやけていて、ばっちりメイクというわけにはいかない。

 だからって、もうちょっと言い方が……。

 浴室を使いながら閑の物言いを思い出し、拗ねて唇を尖らせる。ふと彼の口調がいつもより剣呑なことに気が付いた。いや『顔がひどい』発言よりも、玄関先で顔を合わせてから、前回会った時よりも表情も口調もどこか不機嫌だった。

 ――心当たりがないわけでは、ない。寧ろ心当たりしかない。

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