身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 その手は更に上がって、琴音の頬に近づいた。思わず、びくりと肩が跳ねると、その手も止まる。
 心臓が痛いほどに早鐘を打ち、ひどく長い時間に感じられた。手は触れないままで頬から下へ、琴音の首筋、そして鎖骨辺りでまた止まる。
 頭上から閑の声がした。

「アクセサリーはありますか?」
「あ、はい。こちらはどうですか?」

 俯いたままで会話を聞く。店長がアクセサリーを付けてくれるのかと思い、身じろぎもできないまま待っていれば、また閑の声がした。

「じっとしてて」

 言われるままに頷く琴音の前にアクセサリーが現れる。イミテーションだろうが煌びやかなそのネックレスの両端を持つのは閑の手で、彼はそのまま琴音の背後に回った。

「あ、そうだ。ヴェールとブーケも持ってきますね、せっかくですし」

 そう言う店長の声が離れていく。胸元の総レースの上からネックレスが触れて、うなじには閑の指先が当たった。

 ――どうしよう。熱い。

 きっと肌も真っ赤に染まっているだろうと思うと、尚更居たたまれず琴音は肩を小さく竦めた、その時だ。

「琴音、背筋」

 低い声のその言葉と同時に、すっと背筋を手で撫でられる。反射的にすっと背筋が伸びて、目の前の鏡に映る自分と閑の姿が目に飛び込んでくる。

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