身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 楽しみなのは、本当のことだ。結婚がというよりも、閑とゆっくりと夫婦になっていけるだろう少し先の未来のことが。激しい恋ではないけれど、きっと穏やかに夫婦になれる。

「私、お料理教室に通おうと思って」
「料理? 苦手なら無理はしなくていいけど」
「仕事辞めたら、時間が出来るし。私も、閑さんが疲れた時に美味しい雑炊が作れるようになりたいので……あれ、すごく美味しかった」

 閑が家の前で待っていた、あの夜のことだ。疲れた身体にじんと沁みて、本当に美味しかった。
 琴音が微笑んでそう言うと、閑もようやくはにかむ様な笑顔を見せた。

「雑炊で良かったら俺が教えるよ」
「本当? じゃあ料理教室では閑さんがびっくりするようなご馳走を習ってきます」
「いや、普通のでいいから」

 笑い合って、それから指輪の箱を一度閉じる。

「つけないのか?」

 閑にそう問われたが、琴音はちょっと、わがままを言ってみたかった。

「あの。……ひとつだけ、お願いがあって」
「何?」

 指輪の箱を大事に両手で包みながら、一度唇が逡巡する。また頬が熱くなるのを自覚しながら、思い切って口にした。

「……閑さんに、つけて欲しいです」


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