身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

 閑が目を見開いて一瞬黙り込む。その様子に、一層恥ずかしくなった。やはり、指輪くらい自分でつければよかったかもしれない。

 だけど、初めて男の人に指輪をもらうのだ。それは、今日のこの一度きりの思い出だから。

「……ダメですか」

 蚊の鳴くような小さな声でもう一度尋ねれば、閑がはっと息を吸い込んで、それから照れたように口元を手で覆う。

 そうして表情を取り繕ったのだろうか。その手が口元を隠す役目を終えた時には、優しい笑みに変わっていた。

「後でいいの?」
「……ここでは恥ずかしいので、後で、人がいないところがいいです。帰りの車の中で……お願いします」

 先ほどから、ちらちらと他の客席から視線が飛んでくる。指輪だと丸わかりの小箱と、僅かに緊張を孕んだ空気が如何にも「プロポーズ」だと思わせるものだったのだろう。
 ここで指輪まではめてもらっては、更に目立ってしまう。

「……その方が、ちょっとまずい気がするんだけど」
「え?」

 閑が苦笑い気味に言った意味がよくわからず、琴音は首を傾げる。閑は、なんでもないと首を振った。


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