身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
心臓がどうにかなりそうなほどに忙しなく高鳴って、もう言葉も声も出なかった。
「幸せにする」
やっぱり夢の中のようだと思う。返事をする余裕もなく、琴音はただ固まったまま見つめ返す。
閑の片手が琴音の左手を掴んだまま、もう片方の手が琴音の視界に入り、指先が頬に触れた。
びくっと肩を揺らした琴音に、閑は一度迷ったように瞳を揺らす。けれど、手は引かずそのまま頬の覆い、顔を近づけた。
ゆっくりと、琴音を怖がらせないように。
「目を閉じて」
囁かれて、咄嗟に強く目を閉じる。すると、視覚以外の感覚が鋭くなったように感じた。車内には互いの息遣いだけが響いていて、今、狭い空間にふたりきりなのだと強く意識してしまう。
「んっ……」
くすぐったいほどの優しさで、唇に柔らかな感触があった。
無意識に、閑に握られた手に力を込めてしまうと、宥めるように親指が手の甲を撫でてくる。
はじめはただ触れ合わせるだけの、優しいキスだ。それが少しずつ唇を食むようにされて、頭の中が溶けてしまいそうに熱くなる。
唇がやけに敏感になり、ぞくぞくとして身体の力が抜けてしまう。
「琴音……」
唇が離れて、目を開けるとまだすぐ目の前に閑の瞳があった。
「あ……」
思わず声が漏れる。閑が再び、今度ははっきりと角度をつけて琴音に唇を寄せようとしたその時、ポツ、と雨音が車を叩く音がした。
これまでふたりの息遣いしか聞こえていなかった耳にその音は突然に飛び込んで、琴音は大げさに身体を跳ねさせた。