身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
 染谷家と二宮家は、祖父同士が幼い頃からの友人だった。両家はどちらも同じ地元の小さな工場だったが、染谷家はそのまま精密機械の部品専門で家業を続け、二宮家はカメラを軸に光学機器・電子機器メーカーとして今では一大企業となっている。

 発展の道は違ったが仕事上でも付き合いは続き、染谷の工場が作る部品の一部は二宮の会社専属で卸されている。

 家族ぐるみの付き合いも琴音が中学に上がる頃くらいまではあった。夏になると二宮家の別荘で両家が集まり、休暇を楽しむのが恒例だった。琴音と可乃子、二宮家の一人息子である閑の接点はそこだ。
 別荘の広い庭を走り回ったり、川遊びに行ったり、どこに旅行に行くよりもその数日間が楽しみだった。
 姉の可乃子と彼が同い年で、琴音は一生懸命後を追いかける。追いつけずに泣き出した琴音に気づいて、足を止めてくれるのは大抵姉ではなくて閑のほうだった。

 そんな年に一度の交流も、姉たちが高校受験の年になってからは何かと忙しく、なくなってしまっていたのだが。


「……懐かしいな」


 子供の頃の楽しかった思い出と一緒に、大人になりかけの頃のほろ苦い感情も掘り起こされて、そこから逃れるように目を閉じた。

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