身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
 実家に帰るまでに、まだ半月ほどある。しかし、閑の忙しさを考えれば、きっとそう何度も会えないだろう。

 仕事に追われていたときは、閑とのことどころか自分のことすらままならず考える時間もなかった。けれど、その仕事もなくなった今となっては、考える時間はたくさんあって、余計なこともつい、考えてしまう。

「……実家、帰りたくないな」

 車の消えた角を見ながら思わず零れた声は、蚊の鳴くような小さな声だった。

 自分が何を恐れているのか、わかっている。だけど、なぜ恐れているのかはわからない。
 過去のことなのだから、気にする方が苦しいだけだ。だから聞かなかったことにしようと決めたのに、どうして怖いと思うんだろう。

 実家に帰れば、結婚式までにきっと姉の可乃子が一度は顔を出すだろう。たとえそれがなくても、結婚式には当然会うことにはなるのだけれど。

 子供の頃は、優秀で面倒見がよくて優しい姉が、大好きだった。両親の関心を全部綺麗に浚っていって、やきもちもたくさん焼いたけれど、それでも仲は良かった。可乃子も琴音を可愛がってくれていたけれど。

 琴音が社会人になってから、片手の指で数えられる回数ほどしか会っていない。

 いつから、こんなに遠くなったのだったか。
 きっと今も、見惚れるほどに美しいんだろう。

 
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