お願いだから、俺だけのものになって
奏多side)

「おい奏多、聞いてんのか?」



「は?」



「だ・か・ら・・・

 今度のライブに着る服
 どうするって?」



尊に何度も
聞かれていたらしいが

昨日の学校帰りから
美紅のことで
頭の中がいっぱいで

それ以外の情報は
脳が拒絶している



「ライブの服なんて・・・

 なんでもいい・・・」



「は?

 いっつもライブの時は
 アクセサリーまでこだわってる
 奏多なのに
 どうしちゃった?

 さては・・・
 クリスマスに一緒に過ごす女がいなくて
 なげいてるわけ?」



クリスマス・・・・



は!!



明日は
クリスマスイブだった!!



美紅は
サッカー部の夏樹先輩と
過ごすんだろうか・・・



昨日
夏樹に手を引かれ去っていった
美紅を思い出すと
胸が締め付けられて痛む




「か~君
 クリスマス一緒に過ごそうよ~」



「え~
 私と過ごしてくれるよね?」



尊と俺の周りには
いつも取り巻き女子がいて

俺は
女子たちとしゃべったりするのが
結構好きだが

今日はそんな気になれず
自分の机に顔を伏せた




???

廊下が騒がしい・・・




ふと顔を上げて
廊下を見ると

俺の教室の入り口に
一番見たくない奴が立っていた



「夏樹せんぱ~い
 うちのクラスに何か用ですか??」



女子たちが
夏樹先輩に群がって
甘~い声で話しかけている



一人の女子が
俺の所に駆け寄ってきた



「か~君!
 夏樹先輩が呼んでるよ」



やっぱり・・・


俺に用か・・・



俺はだるそうに立ち上がり

さわやかな笑顔を振りまいている
夏樹先輩の所に向かった




夏樹先輩に連れられ
俺は人がいない食堂まできた



「ここでいっか

 これ、美紅ちゃんから頼まれた
 奏多君に渡して欲しいって」



先輩はニコニコしながら
俺に紙袋を渡してきた



紙袋の中を見なくてもわかる



これは
マッチ売りの少女に
俺が巻いてあげたマフラーだ



「ありがとうございます」



俺は不愛想にお礼を伝えて
その場を去ろうとした時
先輩が言った



「美紅ちゃん、もう
 奏多君に会わないって」



・・・だろうね



昨日
俺に会いに来てくれたのに

俺は美紅を無視して
女の子たちと
帰っていったんだから・・・



「そうですか・・・

 で、夏樹先輩は
 美紅のことが好きなんですか?」



「好きだよ!
 おれ、美紅ちゃんのこと本気だから」



夏樹先輩は
さっきまでの笑顔から一変
真剣な顔で即答した



俺だって美紅のことを
本気で好きだ



一人の女の子に
これほど真剣になったのは初めてだ


でも・・・



その瞬間
俺はわかってしまった



夏樹先輩に・・・

俺は勝てないだろう・・・




今まで俺は
遊びでしか
女と付き合ってこなかった



相手が本気になる前に
俺から終わりを告げる



そうやって
何人もの女の子を泣かせてきた



でも夏樹先輩は違う



美紅のことがずっと前から好きで

女子たちに誘われても
「好きな子がいるから」と
断り続けてきた人だ



男から見てもカッコよくて
みんなから慕われてて
紳士的な夏樹先輩に

どう逆立ちしても
俺は勝てないだろう・・・



「これ、ありがとうございました」



おれはそう告げると
先輩から逃げるように
その場を去った



教室に向かい
廊下を歩いているとき
俺はふと立ち止まり
紙袋の中をのぞいた



紺のマフラーとは別に
星の形のクッキーが入っていて
チョコでメッセージが書いてあった



マフラーありがとう 
さようなら




『さよなら』かぁ・・・・



夏樹先輩から
美紅がもう俺に会わないって
聞いた時より

このクッキーのメッセージを見た
今の方が
ダメージが大きく

俺の心をグサグサと尖ったものが
つついている感じだ



「俺もう・・・

 美紅を忘れなきゃ・・・

 駄目だよな・・・・」



俺は紙袋の上を
きつく折り曲げ

深く深呼吸をして
教室へ向かった




昼休みが
もうすぐ終わろうとしている頃

「大変!大変!」

一人の女の子が
大声を張り上げ教室に入ってきた



どうせくだらない噂だろうなと
思っていると・・・



「夏樹先輩
 彼女さんの手作り弁当
 食べてたんだって!」



「え~~~ショックだよ~~」



「しかもね
 サンタとかトナカイの
 キャラ弁だったんだって

 2年の先輩たちが
 夏樹先輩の弁当を
 見たって言ってたよ」



それって・・・


美紅の手作りだよな・・・




弁当作ってやるほど
美紅にとっても
夏樹先輩は特別なのか?



考えれば考えるほど
俺はイライラする



学校帰り
俺は誰とも話したくなくて

「尊!
 俺、先帰るわ」

と言って走って学校を出た

< 11 / 32 >

この作品をシェア

pagetop