お願いだから、俺だけのものになって
商店街を歩いていると
心を包むような優しい声で
話しかけられた



「あら、この前は本当にありがとうね」



え??


顔を上げると
美紅とツリーを見ていた時に倒れて
家まで背負ってあげた
おばあさんがいた



「またお会いできて嬉しいわ
 お店に寄って行って」



俺は誰とも話したくない気分だった


でも
きぬさんの笑顔を
振りきることはできず
和菓子屋さんに入った



きぬさんは俺に
お茶とイチゴ大福を出してくれた



「奏多君だったわね
 あなた、何か辛いことあったでしょ?」



「え??なんでですか?」



「そんな暗い顔していれば
 だれでも気づくわ

 それに
 美紅ちゃんといた時と
 表情が全然違うもの」



俺がへこんでいることをばれたくなくて
普段通りにしていたつもりだが

俺の落ち込みは
隠せていなかったらしい



「どうしたの?」



きぬさんは
優しく微笑みながら聞いてきた



「オレ・・・
 好きな子がいるんです・・・」



「フフフ、美紅ちゃんでしょ」



「え?
 なんでわかるんですか???」



「そりゃわかるわよ!
 この前クリスマスツリーの所にいた時 
 奏多君は恋している顔をしていたもの」



????



オレ、そんな顔してたのか?



「きぬさん!
 そんなことわかるんですか?

 じゃあ美紅は、
 俺のこと好きなのかもわかりますか?」



俺は考える前に
口に出して聞いていた



おれ
なんて恥ずかしいことを
きぬさんに聞いてしまったんだろう・・・



「奏多君
 それは私がお答えすることではないわ

 美紅ちゃんに自分の気持ちを伝えて
 自分で聞かなくてはね」



「俺、美紅のこと傷つけたし」



「美紅ちゃんを傷つけたなら
 心をこめてあやまればいいのよ

 あの子ならわかってくれるから」



「それに
 俺なんかかなわないくらいカッケー奴が
 美紅に惚れてて
 勝てる気しないし」



「おばあちゃんに言われても
 嬉しくないと思うけど
 あなたはとても魅力的よ

 私があと60歳若かったら
 あなたに惹かれていたと思うもの
 フフフ」



きぬさんは穏やかに微笑んだ



「商店街のみんなね
 美紅ちゃんが可愛くてしょうがないのよ

 あの子
 両親がお弁当屋をしていて忙しいから
 子供のころから親になかなか
 甘えられなくて我慢していたの

 だから商店街のみんなで
 あの子の親代わりになろうって決めたのよ

 私からしたら
 子供じゃなくて孫だったかしらね」



「・・・」



「美紅ちゃんは
 寂しくても我慢してしまう子なの

 私としては奏多君みたいな人が
 美紅ちゃんの隣にいてくれると安心よ」




「きぬさんありがとう
 俺、美紅のところ行ってくる」




俺は今まで
何に迷っていたんだろう



傷つけたなら謝ればいい!


夏樹先輩にかなわないと思うなら
美紅に選んでもらえるように
今から俺が変わればいい!



絹さんに背中を押され
俺は『お弁当成瀬』のドアを開けた

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