約束
【受胎】
もしかしたらこのまま結婚とか……そしたらもうバレエは辞めようか。

そんな風に思い始めた頃、先生と奥様の関係は修復してしまった。奥様もほんのひとときの事だったらしい

残念には思ったけれど、私にそんな権利はない。
先生は元の鞘に戻るのだ、こんな関係も終わりなのだ──そう思ったのに、彼からその後も求められた。いけないと思いつつ、喜びの方が勝った。

ずるずると月日は流れて、気が付くと二年余りも彼との関係が続いていた。

そんなある日。
彼とのホテルでの逢瀬の帰り道、ひとり夜道を歩いていた。
ふと見上げると、月が目に入った。漆黒の空に浮かぶ銀色の月は綺麗な半円状だった。

黒い空に穴が開いたように見えるそれを、歩きながら見つめていて、はたを思い出す。

「──え……嘘……!」

月の物が来ていない事を思い出した、生理だ。
私は比較的きちんと25日周期で来る、だから排卵日あたりは危険日だと言って避けてはいたけれど──そうじゃない日でももちろん避妊は毎回していたけれど、それが100%でない事は知っている。

だから、まさか、本当にそんな事が……!

その場で手帳を出して確認した、月の物は青いハートで記してある。
それは、先々月が最後だった。その後は記入を忘れているのかもしれないけれど……書かれている予定と摺り合わせても、先月は来ていないと思い出す。
毎日それなりにハードな練習をこなしている、月の物の対処をした記憶がない。

こんな事は初めてだ、毎月きちんと来ていたものが来なくなる、その可能性が……一番あってはならない可能性への心当たりがゼロではない事が、一番怖かった。

そんな馬鹿な──不安な一夜を過ごした。
翌日、私は普段行く事がない駅まで行って、駅前の薬局で妊娠検査薬を買った。

自宅で試すと──間違いなく陽性だった。
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