【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
明日掃除する予定の藻の生えたプール。それを見ながらみんなで愚痴を言いあっているうちに、グラウンドにナギちゃんの姿が見えた。


「ナギ支度はやっ」


「ナギちゃんサッカー命だからね」


窓に手をついて、ナギちゃんの姿を追う。


「……ほんとサッカー命だよね、あいつ」


と声がして思いっきり顔を上げるとそこには。


「灰野くん……!」



ガラスにへばりつくあたしの隣に、いたはずの彗がいなくなってる!


いつのまにか離れたところにいた彗に目をやると、にやりと含み笑いを返された。


隣に立つ灰野くんは、物憂いげに窓の外を見ている。


あぁ……かっこいい。



今ってあたしに話しかけてくれたのかな?

それとも独り言?


ガラスの向こうに視線を戻して「一生懸命だね……」とあたりさわりのないことをあたしは言った。


「一生懸命だね」


彼の声はAIのような感情の入らないオウム返しだ。


でも、よかった。会話だ、これ。



「ナギを見る藍田さんが。めちゃくちゃ一生懸命……」


「え?」


「藍田さん、授業中ナギのことばっか見てなかった?」


「あぁ、うん。見てた」


部活のことを熱心にLINEしてるなぁって。


「え?」


だから、なに?


「……」


灰野くんは何も言わない。



教室に、しぃんと静が広がっていく。



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