【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
なにそれ。


少し離れたところに目を移すと、藍田さんと彗が競い合うみたいにブラシをこすっていた。


「あははっ、彗そんなに本気だして転ばないでよ?!」


「大丈夫!洗剤めっちゃいいよ?早く終わらせよー!」


体操着姿の藍田さんはポニーテールを揺らしながら、低い水しぶきを立てて笑っている。


きらっと水面を輝かせる西日のせいでこんなに眩しいの?


「ここ、きれいになったぁー!」


満足げに笑って、彗を見る藍田さん。


可愛いなぁ……。


「灰野くん、手がとまってますよ?」


まるで幼児でも咎めてるようなリホの声に、はっとした。


「……はい」


と視線を落とした足元、汚っ。


ああぞわっとする……。



「一回ここ、水で流していい?」


「おねがぁーい」


プールサイドに上って、ホースを蛇口に取り付ける。


蛇口を全開に捻って。



プールサイドからホースの口をすぼめて水を遠くへ飛ばす。


底から浮き上がった泥を排水溝へ押しやって、透明になっていくこの爽快感。


ナギが磨いた部分は問題なくきれいだ。



「灰野、俺にかけんなよ」


「それフリ?」


ナギに水を向けたら「やめろまじで!」と笑って逃げる。



ほらほらほらほらぁー。


「灰野やめろ!つーか見下して笑うな!」


誰がやめるか。


「もう遊ばないでよ、ふたりー!」


そう彗が笑う足元の黒ずんだ泡にも水を向けて、排水溝の方へと押し流す。


「わー、結構綺麗になってるね!」


藍田さんの笑顔は、なんであんなに眩しいの。



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