【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
あーあ、聞き上手って、何だよ。


「昨日のことは、山本に聞いたんだけど……。そういう形跡みたいなの残しててごめん。俺ほんとに忘れてて。すぐに捨てるから」


「そ、そうじゃないの……」


「じゃあ……やっぱ引いたってこと?」


「引くって?引いてないよ。どうして?」


「だって、手払われたし」


「あれは、あたしも動揺してて。よくわかんなくなっちゃって……払っちゃった。ごめんなさい……」


藍田さんのごめんなさいが聞こえるたびに、なんでこんな苦しくなるんだろう。


俺ってやっぱり、今でもうまくやれてないんだろうな。なにもかも。


喧嘩さえ山本に聞いて来てもらわなきゃ解決できないようなザマだし。情けな。


はぁ……っと、肺に溜まった息が漏れる。


「あの……ごめん」


そうやってまた謝るのは、なんなんだろう。

そのたびに逃げ出したくなるのも、なんで。


ああそっか、俺
彼女には楽しそうにしててほしいんだ。


花みたいに気軽に笑っていてほしい。


……それって俺らには、もしかしていつまでも無理なのかな。


ギスギスする空気の中に藍田さんを置いておくのが嫌だ。


でもそういう空気を作っちゃうのは俺だよね。


「……勉強頑張って」


相性最悪だって自覚はある。

好きだけじゃどうにもなんないのかな。

教室を出ようとしたとき。


「伊吹!イケメンいねーわ!だからお前強制参加だっ……ああああ忘れてたぁ……藍田さんいたよねぇ!お疲れ様です……!」


満面の笑み浮かべて敬礼してんじゃねーよ。


「お前まじで……。俺いかないから。山本が二役すればいい話だろ」


「分身?ん。まぁこの話は外でね」


その小声が万が一藍田さんに聞かれてたら誤解されんだろ。

まじで殺すぞ。

「行かねーよ」

「いやでも見てみ?今日のメンバー、正直うちの学校にはいないレベルの美女揃い」

スマホをぐいっと近づけられた。

きらんきらんした女子高生が並んでるけど。


「……こんなくだんない時間使うなら俺は藍田さんといる」


だから追っかけてこないで。鬱陶しい。

< 309 / 400 >

この作品をシェア

pagetop