【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
あたしにはしない言葉遣い。

屈託のない笑顔。

それに、完全にふたりの、世界にいない……?


あたしのこと、見えてる?灰野くん……。


あれ?なんだろう。

胸がくるしい。


「それ伊吹にあげるね。二枚ゲットしたから」

「いいの?」


二人しか知らない世界。

あぁ……受け取るんだ、灰野くん。

そんな、嬉しそうに。


「さんきゅ。お礼はする」

「んー、最近写経にハマってる」

「はいはい」


突然なんで写経?


その意味を当たり前みたいに受け取る灰野くん。会話が簡単に成立する二人。


ああそうだ。こんな感じだった。
付き合っていた当時のふたりは。


藤堂さんが通り過ぎて行って灰野くんは鞄にCDを仕舞ってから歩き出した。


「ごめんね、帰ろ」


その声色は今だって……誰より他人行儀じゃない?


「……うん」


お礼って、なにするんだろう。
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