【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
でもね。
彗にリホに、花。


他の子は名前で呼ぶのに、あたしだけなんで「苗字」+「さん」なの?


「ねぇ灰野くん」

「ん?」

「お互い名前で呼んだら、距離近くなるかな?」

「……名前で」


あたしは灰野くんじゃなくて。


「伊吹……って。あ、やっぱり伊吹くん」


「なんか不自然……」


あたしたちクスクスと笑い続けてる。

体震えるくらい緊張してるよ。

灰野くんもそうなのかな。

だから、手のひらに余計に力いれてるの?


「じゃあ……胡桃、ちゃん?」


「—――っ、呼びながらこっち見ないで」


「……胡桃」


そういって灰野くんはあたしをぎゅうっと抱きしめた。

柔軟剤の甘い匂いと、激しい心臓の音。


「は、灰野くん」


「はは……っ、呼び方戻ってんじゃん」


「あ……」


「藍田さん、こっちむいて」


「え?」


ちゅうっとキスをする灰野くん。

ふいうちだよ……。


ドキドキする。


「……って、灰野くんも"藍田さん"にもどってるよ」


「いいんじゃないの。急がなくても」


「えー……」


あからさまにがっかりするあたしに、灰野くんは控えめに笑う。


「いつか苗字で呼ぶのに困ったとき、名前で呼べばいいじゃん」

「そんなことある?14年間も困ったことないのに」


「一個だけあるだろ」


一個?

首を傾げるあたしに「なんでわかんないんだよ」っていつもみたいな呆れ笑い。


「……ばーか」


「え?」


「一回しか言わないからね」


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