キミ、が欲しい



少しずつ後ずさりするから「待って」と言って止めた。
彼の目の前にたった今売り切れた焼きそばパンを差し出すとパッと顔が明るくなった。



「あげるよ」



「えっ!いいの!?あ、でも結城さんが……」



「そ、そうだよ!結城さん、こんな鈍くさい奴ほっといていいから」



間に入る友達をシカトして彼の手を取りパンを持たせた。
慌てて財布を出そうとするから止めたのに納得してくれない様子。



「お金はいらない。じゃあその代わり一緒に食べよう?」



「喜んで!」と言ったのは勿論彼ではなく、周りの友達だ。
麻衣子も梓もすぐ打ち解けて友達同士で盛り上がってる。
目立つ存在だから注目されてることは理解してるけど、私的にはそんなのどうでもよくて代わりに買った他のパンをも彼に勧めてた。



食堂のテーブルに向い合って座る。
隣はキャッキャと騒いでいるのに彼は無言で焼きそばパンを頬張って、時折聞こえてくる周りの声に居心地が悪そう。



“一緒に居る男ダレ?ダッサ…”
“何回誘ってもダメだったのにああいうのがタイプなの?”
“絶対負ける気しないんだけど”
“彼、可愛そうに…遊ばれてんだね”




勢いよく最後まで頬張った彼は喉をつまらせながら「ごちそうさまでした」と席を立つ。
ダッシュで逃げるように走って行ったから呆気にとられた。
え?今のなに?逃げられた?



友達も「ほっときゃいいよ」と麻衣子達と楽しそう。
どこに行くかわかってないけどとりあえず私も走り出してた。
麻衣子達の声も周りの目も何ひとつ眼中になくて、ただただ小さくなりつつある彼の背中を追いかけてる。






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