間宮さんのニセ花嫁【完】



茶髪のその男性は気怠げに首に手を当てながら「はぁー」と溜息を漏らす。


「いやー、吃驚した。風呂上がったら突然女の子入ってきちゃったし」

「……百瀬、」


百瀬?と間宮さんが口にした名前に聞き覚えがある。
暫くして廊下に駆け付けた桜さんが「あらあら」と何かを思い出したように、


「そういえば百瀬が帰っていたんだわ。すっかり忘れちゃってて」

「酷いなー、母さん。まぁ帰ってきたの昨日の深夜だったからね」

「帰ってきたって、お前」


百瀬と呼ばれたその若い男性と目が合うと彼が「あ!」と閃いたように私のことを指差した。


「この子が兄さんの奥さん? 可愛いねぇ」

「兄、さん?」


兄さん、ってことはもしかして……
間宮さんの顔を見上げると彼は苦虫をすり潰したような表情を浮かべていた。


「どうも、俺この家の次男坊の間宮百瀬って言います。よろしくね、義姉さん?」


私に裸を見られたのにも関わらず爽やかな笑顔で手を振る彼に度肝を抜かれる。
消せるものなら消してやりたい、彼の裸を見てしまったという事実に頭を抱えることとなった。


< 177 / 309 >

この作品をシェア

pagetop