間宮さんのニセ花嫁【完】
「どういうことだ?」
「何の才能もない兄貴に跡取りを譲ってあげるために俺が家を出た。結果、可愛い奥さんも貰えて跡取りになって順風満帆じゃん。感謝の気持ちぐらい持ってほしいね」
「っ、百瀬くん! それは!」
すると突然間宮さんに腕を掴まれたと思うと強い力で引き寄せられ、百瀬くんから引き剥がされる。私の肩を抱く力で彼がまた本音を自分の底に押し込めていることを悟る。
「言いたいことはそれだけか?」
「……」
耳元で聞こえる彼の声が明らかに普段よりも低い。その重圧感に恐怖で彼の顔を見上げることができなかった。
百瀬くんは動じない彼の態度に「ふん」としけた顔をすると私たちの隣を通って廊下を突き進んでいく。
紗枝さんから聞いていた彼らの確執というのは、それ以上のものだった。
「悪いな、嫌なところ見せて。百瀬に何かされなかったか?」
「……千景さんは、百瀬くんのために家を継いだんじゃないんですか?」
「……」
なのにこのままじゃ百瀬くんはずっと間宮さんのことを誤解して、二人の仲がすれ違うばかりだ。
「俺が家を継ぐ理由に百瀬は関係ないよ」
「嘘、私にだってそれくらい分かります」
「……だとしてもそれをアイツが知ったら性格上、いい気分にはならないだろうな」
でも、間宮さんだって本当は悲しい顔をしているのに。不安そうにする私を安心させるように微笑んだ彼はそっとその頭を撫でてくれる。それなのに心は全く暖かくならなかった。
どう足掻いても前向きに考えられない。間宮さんには笑顔でいてもらいたいのに。
自分の不甲斐なさが情けなく、心の底で「役立たず」と罵らずにはいられなかった。