間宮さんのニセ花嫁【完】
と持ち前のポジティブシンキングで意気込んでいたものの、
「それではそれぞれの先生の元、実際に茶道を体験してみましょう」
まとめ役の先生が出した合図と共に各担当場所で講師から生徒である人たちへの指導が始まる。
しかし周りの先生がお茶を点て始めるのに対して、私はその場で正座し続けることしか出来なかった。
それもそのはず、私の目の前に生徒は一人もいなかったからだ。
「(まさか生徒が好きな先生を選べるシステムだったとは)」
生徒と言っても私よりも年上の女性ばかり。その為か、私のような若い先生には教わりたくないと避けられてしまったのだ。
まあ見た目から未熟ぶりが漏れ出てしまっているのかもしれないが。
「(さ、流石にこの状況は凹む……)」
帰りたい、そう思っていると、
「その簪、素敵ですね」
不意にそんな言葉が上から落ちてきて顔を上げる。すると私はそこに立っていた女性を見て大きく目を見開いた。
その女性は「ここいいですか?」と私の目の前に美しい所作で腰を下ろす。
「道に迷って遅れてしまって。お願いしてもいいですか?」
そう言って微笑んだ女性、彼女はあの日間宮さんと話していた……
「田村楓と言います。宜しくお願いします」
間宮さんの元恋人。