間宮さんのニセ花嫁【完】
だけど間宮さんの言う「傷付けた」と言うニュアンスは彼女に直接何かをした、という風に感じ取れる。そこだけは二人にも分かっていないらしい。
でも間宮さんと楓さんがお互いが望んだ形で別れたわけではないというのが分かる。そしてお互いが今でも後悔するくらいに、忘れずにいることも。
「傷付いたのは千景もだわ。彼は停学中は外とは接触が絶たれてみたいだから先生が学校を辞めて引っ越したことを知ったのは学校に戻ってきた時だったの」
「その時からアイツは変わったよ。間宮家の長男として家が認めるような男になるために努力してたし。だけど俺にはそれが先生を振り切るために必死になっていたように見えたけど」
「……」
彼が今まで恋人を作らなかった理由。それは過去に自分のせいで学校を辞めさせて街からも追い出されてしまった楓さんに対する罪悪感。
そして彼が今まで恋人も作らず結婚もしなかった、実家を継がなかった理由は……
「(今でも楓さんのことを……)」
バラバラだったピースが一つになり、答えが見えた。その答えは私にとっては酷だったが。
しかし彼が幸せになるための道筋を見つけられたような気がした。
「その簪はまだ二人が付き合ってた時、修学旅行先で千景が先生のために買ってあげたものよ。でも先生にあげたものをどうして千景が持っているのかしら」
「……」
間宮さん、この簪を大事そうに持っていた。私が初めてお茶会に参加する時緊張していたら、それを解すようにこれを頭に挿してくれた。
これは元々、彼が楓さんにあげたものだったんだ。
「大丈夫か、飛鳥ちゃん? 昔の話だし背負いすぎないようにな」
「そうね、千景が今好きなのは飛鳥ちゃんなわけだし。不安に思うことは何もないよ」