間宮さんのニセ花嫁【完】
きっと彼はもう楓さんのことを諦めていたと思う。私が持っていることで彼女への気持ちも捨て、家に身を収めるつもりだったのだろう。
だけどそれは事実を知った私には残酷過ぎる。楓さんと別れた後も捨てられずにいた大事な簪を私が持っていていいわけがない。
これを持つにふさわしいのは、私じゃない。
「千景さんがこれを持っていてほしい人と、幸せになってほしい」
それが一番正しい道な気がする。だけど今の彼じゃきっと彼女のところへは向かえない。
私がその背中を押してあげたい。
「好きなのね、千景のこと」
紗枝さんが漏らした言葉に隣にいた正志さんが「えっ」と驚いた表情を浮かべる。
「そうなの?」
「鈍感、女心分かってない。だからお父さんに結婚認めてもらえなかったのよ」
「それ関係ないだろ!」
って、飛鳥ちゃん千景のこと好きなのか!?と私を見てくる正志さんに静かに頷いた。
だけどここで優先するべきなのは私の気持ちじゃないこと、分かっているつもりだ。
「いいの? 今のままじゃ飛鳥ちゃんが不憫で可哀想よ」
「私は大丈夫です、前向きなので。これで彼が笑顔になるのなら」
「飛鳥ちゃん……」
「間宮さんの笑顔、好きなんです!」