間宮さんのニセ花嫁【完】
だってイメージがないから。だけど茶道の家元になるってそういうことなんだろうな。来年の春には彼が会社にいないことを想像しては胸を通り抜ける風が寂しく思える。
今までみんなの間宮さんだったものが、いつかは誰かのものになってしまう時がきっと来る。
その時に私が彼の過ごしたこの半年間を後悔しない為にも、その為にも、
「間宮さん、ごめんなさい」
「ん?」
「正志さんたちに私たちのこと話しました」
驚きで目を丸くする彼が「は、」と短く白い息を吐いた。
「どうして?」
「……間宮さんに会っていただきたい人がいるからです」
「……」
「田村楓さん、ご存知ですよね」
私は鞄の中から手帳を取り出すと間に挟んでいた小さなメモを手に取り、彼に差し出す。その紙には楓さんの今住んでいる家の住所が書かれていた。
「正志さんにお願いして調べてもらいました。もう一度会って、話をしてくれませんか?」
「……」
彼はそのメモに手を伸ばすと掴んでいる私の手ごと自分と反対方向に押した。
「駄目だ、困るよ。こんなことされても俺は彼女には会わない」
「っ、どうしてですか?」
「話すことがないし、会う必要もない」