間宮さんのニセ花嫁【完】
メモがぐしゃりと掌の中で潰れる音がする。彼の目は諭すように私のことを見つめていた。
また間宮さんが自分の中で何かを諦めようとしているのならば、私はそれを堰き止めたいと思う。
「正志たちから何を聞いたのかは知らないが、今の俺は違うから」
「……でも」
「電車来たな、乗ろう」
「っ……」
ホームに流れ込んできた電車の音で私たちの会話は妨げられた。頑なに楓さんと会おうとしない彼に正志さんに言われたことを思い出した。
『アイツの本心を知るのは相当強引な方法じゃないと駄目だと思うな。長年の付き合いの俺たちにも心開かないぐらいだから』
電車に乗り込む彼の後ろ姿にまた線を引かれた気がした。
楓さんと会うことを提案したが無理だったと紗枝さんに電話で伝えると「やっぱり」と彼女はそうなることを想定していたように溜息を吐いた。
「やっぱりって……」
《千景、停学が明けてから先生のこと忘れたみたいに名前すらも出さなくなって……あの頃はショックが大きかったんだなって思っていたけれど、ずっと自分の中に押さえ込んでいたのかも》
間宮さんが彼女のことを忘れているはずがなかった。今でも『傷付けた人』として彼の心の奥深くに彼女の存在は刻む込まれているはず。
耳元で紗枝さんが「どうするの?」と呟いた。私は彼に拒否されたメモを握り締めた。