間宮さんのニセ花嫁【完】



数日が流れ、二月。世間はバレンタインデー一色でテレビや雑誌では有名ショコラティエが手掛けるチョコ特集で埋め尽くされていた。
バレンタインデー当日、社内は異様な空気に包まれていた。


「はい、柳下くん。バレンタインデーのチョコレート」

「あざまーす。佐々本さん個人からのはないんですか」

「アリマセン」


私と弥生から営業部の男性陣に向けたチョコのアソートから一つ選び口に放り込む。私があげなくたって色んな女性から貰えるだろう。
甘い、と感想を漏らす柳下くんの元へ弥生が慌ただしく戻ってくる。


「どうしたの、そんなに慌てて」

「間宮さん、またチョコもらってて、報告っ」

「今年で最後ですからね、係長にチョコ渡せるの」


今月末で仕事を辞める、そして来週からは有給消化のために会社に来なくなる間宮さんと社内で会えるのは今日が最後である。
その為か社内の女性陣はここぞとばかりに彼にチョコレートを渡すタイミングを伺っているらしい。


「だけど全部受け取ってないみたい。流石というか」


その言葉にギクリと胸を痛める。貰ってないんだ、嬉しいのやらやるせないのやら。
そんな反応に気付いたのか、「どうかしました?」という柳下くんにへらりと笑って誤魔化すとその場を抜けてバレンタインデーで浮かれている昼休みの社内を歩いた。

目星いところは全て覗いたが彼の姿は見つからない。弥生に場所を聞けばよかったと屋上に上がると漸くその姿を発見した。
運良く周りには誰もいないのか、冷たい風に凍えながらその背中に近付いた。


「お疲れ様です」

「……佐々本か」

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