間宮さんのニセ花嫁【完】
結局欲しいものは見つからず、モールの中を全て見終わると彼は腕時計で時刻を確認した。
「一度何処かカフェに入って休憩しよう。歩き疲れただろ」
「……」
私は辺りを見渡し目当ての人を見つけると小さく微笑み、そして彼と向き合うようにして立った。
そして、
「今日はありがとうございました」
「え?」
突然のお礼に間宮さんの目が丸くなる。
「最後の最後に間宮さんとデートができて良かったです。幸せ者です、私」
「飛鳥?」
「それから」
ごめんなさい、と言葉と同時に聞こえてきたのは誰かが彼の名前を呼ぶ声だった。
「間宮くん」
その一言だけで相手が誰だか分かったのか、間宮さんは神妙な表情を浮かべながら後ろを振り返る。そこに立っていたのは楓さんの姿だった。
私が今日ここに楓さんのことを呼んでいたのだ。
千景さん、と、
「私、間宮さんの笑った顔が好きです。それがあったら他に何も要りません」
「……」
「人の幸せを願える貴方の幸せを、私が願ってもいいですか?」
こんな騙すようなやり方、最後にしたくはなかったけれど。
格好悪い散り際になってしまったなと自負しながら、私は涙を隠すように笑みを浮かべた。
「幸せになってください」
良かった、笑顔で伝えられて。ここだけは泣きたくなかったから。
私は涙を堪えるように下唇を噛み締めると彼に背中を向けてその場を走り去った。
白いウェディングドレスが走っていた花嫁が装飾品を落としていくように、私はまた平凡な女へと戻っていったのだった。