間宮さんのニセ花嫁【完】



そんな彼女からの言葉は純粋に嬉しく思った。だが……


「すみません、俺のせいで先生は酷い目に遭ったのに。それでも俺は、」

「ううん、大丈夫。あの日君の顔を見たとき、もう私のことなんて心にないって直ぐに分かったから」


彼女は昔と変わらない、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。


「好きな人がいるのね」


その言葉に俺は反応しなかったが彼女はそれを肯定と受け取ったのか、澄ました顔でカップの中のコーヒーを啜った。
そして中身を飲み干すとゆっくりとカップを戻し、テーブルに置かれた簪に触れる。


「これは君の好きにして。私の言葉に縛られないで。だけど覚えていて」

「……」

「私は確かに高校を辞めた。だけどまた違う街で教師になって、そして色んな生徒たちに触れて分かったの。私凄くこの仕事が好きだなって」


嫌なことばかりじゃなかった。君はそうでしょう?


「『出会わなければ良かった』、なんて言ってごめんなさい。それは嘘、君と出会って良かった」

「っ……」


あぁ、また後悔が絆されていく音がする。昔からずっと心に絡み付いていた黒い念のようなものが消えていくのが自分でも分かる。
また大切な誰かを作れたとしても同じようなことが起こったとしたら、今度こそ俺は再起不能になるだろう。だから何も言えなかった。

飛鳥からの気持ちに答えられなかった。彼女の口から「出会わなければ良かった」なんて言われたら、いい歳した男でも駄目になる。

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