間宮さんのニセ花嫁【完】
「お帰りなさい」
不意に聞こえた声に振り返ると部屋の前に母が座っていた。慌てていたお手伝いの女性たちとは違い、飛鳥がいなくなったというのに取り乱したような後はない。
しかし彼女の視線は強く俺から逸らされることはなかった。
「飛鳥さん、帰ってしまったのね」
寂しそうな顔つきの彼女に言葉を漏らす。
「遂に呆れられてしまったらしい」
「……そう」
母はこの結果を分かっていたかのように全てを受け入れていた。どこまで知っているのか分からず、考えが悟られてしまうのを恐れ部屋を出ると廊下から見える中庭を目を向けた。
縁側でよく飛鳥と缶ビールを交わしていたのを思い出す。今では遠い思い出のようにも感じるが。
「千景、ごめんなさい」
そんな母の言葉に一拍置き、「どうして?」と尋ねる。
「沢山家のことで我慢をさせてしまって。そのことで貴方は今まで何度も悲しい思いをしてきたでしょう」
「……」
「貴方は優秀な子でした。間宮家の長男として立派に育って、そして家まで継いでくれた」