間宮さんのニセ花嫁【完】
二人とも間宮さんの話を出してこないところを見ると私が帰ってきた理由はなんとなく分かっているようだった。
夕食を終え、一人家でボーッとしているのも何なので少し外を散歩することにした。
「ちょっと出掛けてくるねー」
「今から? 外真っ暗よ?」
「直ぐ戻るよ」
学生の頃からの私の日課を知っているからか、母はそれ以上は追求するのをやめて「いってらっしゃい」と送り出してくれた。
海岸までの道を歩きながら昔、母が私と手を繋ぎこの道を歩いてくれたときのことを思い出す。
『お母さんね、海の近くに住むのが夢だったのよ』
私の手を握ってくれた母の手はまるで太陽のように温かかった。
『でもね、それってただ海の近くに住むだけじゃ駄目だったんだなってお父さんに出会って思ったの。お父さんと一緒にいたかったの』
家の猛反対を押し切って結婚した両親。きっと当時は嬉しいことよりも悲しいことの方が多かったに違いない。
だけど私は二人が不幸だとは思ったことがなかった。だってずっと私の前で笑っていてくれたから。
二人の笑顔を見て、幸せってこういうことなんだと知った。
間宮さんの笑顔も、きっと人を幸せにする笑顔だ。
「……さっむ」
真冬の夜の海岸、流石に歩いているのは私だけだった。厚着のコートを着てきたがそれでも突き抜けてくる潮風に身体を震えさせた。