間宮さんのニセ花嫁【完】



はぁと息を吐くと白い空気となって消えていく。私も気持ちもこんな簡単に消えてしまえばいいのに。

ポケットの中に手を突っ込むと何か硬いものが手にぶつかった。それを掴んで取り出すと、私の掌の上にあったのはいつしか彼から貰ったご当地キャラのストラップだった。
指輪も簪も置いて帰ってしまったけど、これだけは持ってきてしまったな。一重に可愛いとは言えないそのキャラクターを眺めながら、私は旅行の記憶を思い出してふっと笑みが溢れた。


「好き、だったなぁ……」


きっと私、あの時から間宮さんのことが好きだった。だけど好きになってしまうといつかくる別れが辛くなるから気付かないふりをしていた。
彼の過去に触れた時、何も分かっていなかった自分が恥ずかしくて、だからこそもっと彼のことが知りたいと思った。知れば知るほど辛くなるって分かっていても、それでも少しでも彼の心の隙間に入れたらって。

結果、その隙間を埋めるのは私の役目ではなかったけど。

いつもみたいに前向きに考えよう。大晦日の日、告白しなければ良かったと後悔したが今考えるとあの場面しか気持ちを伝える機会はなかったのかもしれない。
きっと楓さんとのことを聞いた後だと好きだなんて言えなかったから、勢いに任せて言ってしまったけれどその部分の心残りはない。

好きな人と一定期間だけど夫婦に慣れて、仮だけど新婚旅行と行けて、一番近いところで沢山笑った顔が見れた。
それって、特別で幸せなこと。

ずっと忘れない。

だから、次の恋もきっと……


「……あ、れ」


潮風を受けて冷たくなっていた頰に温かい水が流れる。それが涙だと気付くと私はハッと口元を両手で押さえ、下を向く。
なんで、これで良かったと思ったのに、どうして、どうして涙が出てきてしまうのか。

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