間宮さんのニセ花嫁【完】
シュークリームを配っている彼を見て私は視線だけで「どうして教えてくれなかったんですか!」と伝えてみる。
するとその視線に気付いたのか、彼が少しだけ口元を緩めて私にだけ聞こえるように声を出さずに口を動かした。
「(言ってないから)」
「っ……」
間宮さん、長かった後悔の呪縛から解き放たれたからか前よりもお茶目度が上がってませんか!? 可愛いからいいけども!
私がプルプルと震えているのを見て彼がおかしそうに笑う。
すると、
「あれ、係長の左指に付いてるのって指輪ですか」
もう彼はこの会社の人間ではないというのに未だに係長呼びの柳下くんの言葉にその場にいた人誰もがこちらを振り返った。
彼の左手の薬指に嵌められていたのは確かにシルバーの指輪で、彼の指元でキラキラと輝きを放っている。
「え、もしかして間宮さん本当に結婚したんですか!?」
「あぁ、まだ籍は入れてないんだが……って、そんなに驚くことなのか?」
「お、驚きますよー!!」
間宮さんの発言に弥生が声を上げ、周りがざわつき始める。彼はことの重大さを分かっていないのか、一人不思議そうに首を傾げていた。
しかし弥生は彼の指輪をマジマジと見つめると、「あれ?」と、
「なんかこの指輪、飛鳥のとちょっと似てない?」
「え゛」
「あー、新しい彼氏からもらったってやつ」