間宮さんのニセ花嫁【完】



妬くよ、と言ってくれた一言に徐々に嬉しさが込み上げてくる。こうして愛されてるって言うのを言葉で受け止められるの、いいな。
私は「千景さんだけですよ」と手に持っていたチョコレートのレシピ本を彼の前に広げた。


「駅で買ってきたんです。ここから好きなの選んでください」

「飛鳥が作ってくれるなら何でも嬉しいけど」

「絶対そう言うと思った!!」


予想通りの解答すぎる。しかも恋人として完璧な答えだ。
しかし今私が欲しい答えとはまた違う。


「あんまりお菓子作りのこと分からないから簡単なやつでも大丈夫だけど」

「駄目です、絶対絶対千景さんに喜んでもらいたいんです」

「……」


付き合って、というか一緒になって初めてのバレンタインデー。嫌でも気合が入る。
そんな私の意気込みを察してくれたのか、彼は「そうか」と、


「だったら尚更、飛鳥が一生懸命作ってくれたのがいいな。チョコレートの種類とかじゃなく、その事実が嬉しいから」

「うぅ、そんなの狡い」

「はは、そうだろうな」


狡くてごめんなんて言って笑う彼に勝てるわけもなく、彼に直接聞く作戦は失敗に終わったようだ。
しかし間宮さんからも期待されているし、これは必ずしも喜んでもらえるチョコレートを作らなければ。


「お任せください。佐々本飛鳥改め間宮飛鳥28歳、千景さんが絶対に喜ぶチョコレートを作ってみせます!」


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