間宮さんのニセ花嫁【完】
「その、俺みたいな他人が口を出すようなことじゃないと思うが、あまり気に病むなよ。嫌なことがあった分、この先いいことだってきっとある」
彼の低い落ち着いた声が耳に届いて、自然と私はその声に耳を傾けていた。
「佐々本ならこの先、もっといい男と出会えるさ。それにいつも元気な佐々本がそんなんだと俺たちも調子が狂うよ」
「……」
「佐々本のペースでいいから、少しずついつもの佐々本に戻ってくれたら嬉しい」
この人は、飲み会の間ずっと仕事の電話で席を外していて、私が彼氏に浮気されて嘆いているところなんか一回も見ていないのに。それなのに弥生と柳下くんから教えてもらった情報だけで私が今欲しい言葉をくれる。
上司として周りに気を配って、いつも人のことを思いやっているからこそ出来る。私は彼のそういうところを人として好きで、尊敬している。
しかし尊敬していることもあって、今このタイミングで優しくされると……
「だからああいう強引な飲み方はやめとけよ。危ないから」
「(まずい……)」
アルコールの熱に浮かされた私の思考回路は単純なもので、そんな一言二言で絆されてしまう。
勝手に自分の恋愛のことで自暴自棄になっているだけなのに、間宮さんは上司としても人としても人間が出来ている。
だから思わず頭に浮かんだことをよく考えずに口に出してしまっていた。
「間宮さんと結婚できる人は、絶対に幸せそうですよね」
「……え?」
「本当、羨ましいです」
私の彼氏が間宮さんのような人だったら、もっと状況は変わっていたのかもしれない。
この人はただの部下である私に対してこんなに優しいのだから、きっと恋人にはもっと優しくするのだろう。
今は少し彼が好きになる人のことが羨ましく、そして妬ましく思えた。