新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

「とにかく、結愛さん」

 呼び掛けても返事がない。

「結愛さん?」

 彼女は頭を横に振る。
 状況を飲み込むまでに数秒かかった。

「嘘、だろ。話せるように、なったはずで」

 真っ直ぐに見つめる彼女は、ゆっくりと口を開く。

「はい」

「そう。良かった」

 安堵のため息を漏らすと、彼女の方は呆然としている。

「話せなくなると、思ったのに。話せなくなれば、別れなくて済むのでしょう?」

 気丈に振る舞っていた彼女の声が震え、頬を涙が伝う。
 彼女はその涙を拭おうともせず、はらはらと泣き始めた。

 それはあまりにも美しく、思わず触れてしまいたくなる。

 けれど、ダメだ。もう、彼女とは……。


< 142 / 229 >

この作品をシェア

pagetop