新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 覚えていないとばかり思っていた彼女は朧げな記憶の中に、私と話した覚えがあるようだ。
 子どもの頃に身近に母親を亡くした人はなかなかいないだろうから、強烈な記憶として残ったのかもしれない。

「だから、私には省吾さんの気持ちは分からないかもしれない」

 私たちの結婚を決めた様々な理由の一つはお互い片親で、きっと親を亡くした気持ちを理解し合えるから。

「ああ。そうだね」

「でも、父と離れ、大切な人を失う苦しさは知っています。私はもう二度と……。省吾さんと離れたくないです」

 もう二度と、大切な人を失いたくない。
 それは私も同じだ。

 だから大切な人は、意識して作らないようにしていたように思う。

 母を、亡くして……。
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