新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

「結愛さんがキスしてきた後、動転した私は「これは二人の秘密だよ。誰にも内緒だ」と口止めをしました。つまり脅したんですよ」

 彼女がなにを感じたのか知るのが怖くて、私は結愛さんが言葉を発する前に続きを口にする。

「どう考えたって、子どものかわいいじゃれ合いです。それを、私はじゃれ合いに出来なかった。咄嗟に出た言葉がそれを物語っています」

「大袈裟に考え過ぎですよ」

「いえ。実際、私はそれから、あなたに会わないようにあなたを避けた」

 私の服を掴んでいた手に、力が入ったのが分かった。
 ああ、彼女にも事の重大さが伝わってしまった。

 彼女から軽蔑され、蔑んだ眼差しを向けられると思うと、心が押しつぶされそうになる。

 けれど、これは自業自得だ。
 甘んじて受けるべき罰なのだ。

「ちょうど母が亡くなり、その時の反発心から父の元を離れる決意をした頃でしたから、都合も良かった。私は祖父母の元へ行き、あなたとは会わなくなりました」

「それで、会えなくなったんですね。私が、キスしたせいで」

 落胆した声色は、自分自身を責めているようだった。

「それは違う。きっかけは確かにそうだったかもしれない。だけど本当に悪いのは、かわいいキスをそのままかわいいと、受け止められなかった自分です」

 しばらくの沈黙が流れた。
 彼女の呼吸の音だけを聞き、彼女の判決を待つ心持ちで目を閉じた。


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