新婚蜜愛～一途な外科医とお見合い結婚いたします～

「それで、眠れないのは、お父様がお医者様をお辞めになる件と関係していますか」

　自分も忘れていた話を聞かれ、頭をかく。

「正直、忘れていました。今は結愛さんでいっぱいで」

「そう思い込んでいるだけじゃないですか。そもそも事の発端は、省吾さんが土気色の顔をして「父が隠居したいそうだ」と言ったところからですよ」

　私は結愛さんの指摘に舌を巻いて、本音をこぼす。

「あの時は、父から聞いたばかりで。病院は、母よりもなによりも大切だったくせに辞めるのかって。父の理不尽な行動への怒りが」

「省吾さんは内科医でいたいのではないですか」

「は」

「弟さんが継がれる病院は、弟さん一人が継がなければなりませんか」

「なにを」

「お二人で、は無理なんでしょうか。よく知りもせずに、偉そうな口を聞いてすみません。けれど省吾さんは大切なものから、自ら手を離し過ぎです」

　私の気持ちは彼女に伝わっていないのだと、悲しくなる。

「私は、あなたと共に生きたい。残りの人生、すれ違いの生活をするつもりはない。だから産業医を選んだんだ」

　父のように、母に全てを任せ、母の異変にも気づかず、母の葬儀もおざなりにした、碌でなしになりたくない。