新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 頭痛がしそうになり、頭に手を当てていると、結愛さんはとんでもない要望を口にした。

「あ、の。私たちの話はいいので、中村先生と奥様の馴れ初めというか、お話を聞きたいです」

 誰が親の馴れ初めなど。
 本人の口から子どもに目の前で語られるほど、居た堪れない状況はない。

 そう思うのに、父は少し照れたように応じた。
 その表情が私には新鮮で、口を噤んだまま話を聞くことにした。

「学生の頃から付き合っていてね。若くして結婚したんだよ」

 言われてみれば、父はまだ60歳前だ。
 父は続ける。

「彼女は体が強くなくて。それでも私を支えてくれた。元気な頃は、中村医院の医療事務もしてくれていた」

 母が働いていた頃は病院に行くのが楽しみで、よく行って周りの看護師に怒られていた。
 病気がうつるでしょう、と。

 母にも、怒られていたかもしれないな。
 怒られた記憶がないだなんて、母を美化していたかもしれない。

「それで、40歳の時に乳がんで」

 父は言葉を詰まらせ、それから明るく言った。
 無理して努めて明るく振る舞っているのが、今の私ならわかる。

「若かったから進行が早くてね。最後を看取る暇もなく、あっけなく。彼女には悪いことをしたと、今でも悔やんでいるよ」


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