新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 しんと静まり返った中で、私は口を開いた。

「だから国境なき医師団?」

「ん? ああ、そうだね。一人でも多くの人を救ってほしい。それは彼女の願いでもあるから」

 だから父は母が亡くなった後も、脇目も振らず病院を続けたのか。

 葬儀が終わって、すぐ。
 いつも通り病院を開ける父に失望した。
 悲しくないのか、と。

 今ならわかる。
 母の望みだった医師の仕事を、投げ出したくなかったのだろう。
 なにより、多忙にして悲しみを紛らわしていたのだと。

 父は、母の死を悲しんでいないわけではなかったのだ。

 母が亡くなり、それでも仕事に励む父が信じられず、病院に行かなくなった。
 行くのが怖くなった。

 なにもかもに目を背けていたのは、自分だった。

「海外で無茶せずに、体を大切に」

「ああ。そうだね」

「父さんが倒れたら、母さんが悲しむから」

 息を飲んだ父が、「ああ。そうだね」と再び言った。

< 225 / 229 >

この作品をシェア

pagetop