新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 繋ぎ合う手。
 その手の甲に指先でトントントンと合図を送ると、彼女は頭を左右に振る。

 その仕草がまたかわいらしくて、クスクスと笑いが止まらない。

 ああ。今、彼女がなにを考えていて、なにを思っているのか。
 彼女の口から聞きたい。

 しかし彼女は口をきけない。
 それなのに、まだ彼女に触れたいとさえ思っている。

 部屋に戻り、扉が閉まると、箍が外れかけている自分の理性をなんとか保とうと試みる。
 たった今、彼女を性急に抱き寄せた腕を解いてみたが、彼女と目が合うとダメだった。

 潤んで揺れる彼女の瞳に自分が映る。

「もう一度だけ」

 言い訳を口にして、唇に触れた。

 舌を割り込ませたい衝動を抑え、角度を変え、彼女の唇の感触を確かめるように触れさせる。

 これ以上はダメだ。
 彼女にはトラウマがあって、だから……。

 体を引き剥がし、それから改めて彼女をギュッと抱き締める。
 すると彼女からトントントンと三回、優しく背中に手を置かれた。

 それは私たちだけに分かる大切なサイン。

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