新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~
結婚をしようと決まり、婚約と言えばいいのか、お付き合いを始めたと言えばいいのか、まだあやふやな頃。
どちらともなく見つめ合い、キスをしかけた時だった。
「キスを、しても?」
その質問に返事はなかった。
彼女の恥ずかしがり屋な性格からして、照れているだけなのか、とも思った。
けれど、どうも様子がおかしい。
そこからその日はなにを聞いても、彼女は話せなくなってしまった。
彼女はどうしてそうなるのか、分からないようだった。
私はもどかしくて、思いつきを口にした。
「せめて大丈夫かどうか、モールス信号みたいな、何か……」
話せないのなら暗号を送りあったらいい。
冷静に考えれば馬鹿みたいな、子どものような提案をしようとした。
すると彼女は隣り合っていた手の甲に、トントントンと指を三回置いた。
大、丈、夫。と言いたげだった。
「そう。うん。ありがとう」
私の提案を否定せず受け入れてくれた彼女に、愛おしい気持ちが込み上げた。
後から調べてみるとモールス信号で『大丈夫』を表すと長いことを知った。
とてもじゃないが、普段の意思の疎通としては使えそうになかった。
自分の思い付きで言った提案。
それに対しての彼女の答え。
誰にも分からない短い三音の信号。
けれど、それは私たちには何ものにも代え難いシグナルとなった。
そして、彼女にも分からない信号を私は送る。
トントントントントン。
五回の短い音。
決して声には出さない気持ち。
愛してる。
彼女は顔を上げ、小首を傾げる。
その姿が愛おしくて、私はまた唇を重ねた。