しずくの恋
吉川さんは額にうっすらと汗を浮かべて、
隙のない動きで

次から次へと切れ味よく技を繰り出している。


体幹を安定させて、腰を回転させると

吉川さんの細い手足が
鋭い突きや蹴りを生み出していく。


真剣な表情で稽古に取り組んでいる吉川さんは
流山くんの視線には

全く気が付いていない。



そんな吉川さんを見つめる流山くんの顔は
これまで見たことがないほど、
優しい表情をしていた。


「しずく、どうしたの?大丈夫?」


琴ちゃんの声で我にかえる。


「あ、うん」


声がかすれた。



慌てて気持ちを稽古に戻そうとするけれど、
心の奥底に重いものがズシリと沈み込み、

明るい気持ちに引き上げてはくれない。

< 39 / 73 >

この作品をシェア

pagetop