腹黒王子の初恋
 いやいやいや!

 すごくイヤ!心の奥底から黒いものがあふれ出してくる。

 ゆうきゅんのことをとやかく言える立場じゃないのに。私は泰晴を選んだのに!

 自分の感情を捨てるように思い切り走った。

 その時、ぐっと腕を掴まれた。

「待って。」

 ひどく冷静な声がした。ゆうきゅんだ。

「何で逃げるんですか。」

 後ろを振り向くと無表情のゆうきゅんが。自然と口元に目が行く。口の隅に少しだけ口紅が残ってる。一回拭ったんだろう。

 先ほどの生々しい様子が思い出された。

「いやっ!」

 私は思い切り腕を払いのけた。

「ねぇ、何でそんな顔してるんですか。」
「…」
「何で傷ついた顔してるの?」
「...わかんない…」

 うそ。ホントはわかってる。

「ゆめちゃん、俺のこと好きですよね?」

 私はびくっとして横を向いた。名前で呼んでくれた。

「もう、何なんですか。こっちは忘れようとしてるのに…!」

 ゆうきゅんはイライラしたように私を睨む。

「最近、ずっと俺を見てますよね。」
「…見てない…」

 うそ。ホントは見かける度じっと見てた。顔を見るだけですごく嬉しかった。

「もー、ホントに何なんだよ。俺にどうしろっていうんだよ。」

 顔をゆがませるゆうきゅんを目の前にして、思わず手が伸びるけど、ダメだと思いそのまま手を下した。

「邪魔して、ご、ごめんね...」

 一言残し、私はまた走り去った。
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