※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。


思考がうまくまわらないせいか余計なことばかり考えていると、私を降ろし香山先生に託したあとでユキの声が聞こえてきた。


「花宮さんのこと、お願いします」

「また戻るのか」

「はい。行かないと」


そしてすぐに聞こえてくる、砂利を蹴るだれかの足音。


香山先生に肩を貸される体勢のまま、遠ざかっていく足音を追うように目を開ければ、校門に向かって走って行くユキの後ろ姿が見えた。


「……ねぇ」


風に吹き飛ばされてしまいそうなほどかすかに絞り出した声を、やはり拾ってしまうのだ、ユキは。

走り駆けた足を止めて、ユキがこちらを振り返った。


「頑張ってよ」


言葉とは裏腹に、突き放したような口調になってしまった。

けれどその言葉がユキの心に触れたのが、目に見えるように分かった。


「うん、行ってくる」


綺麗な凜とした笑顔とたしかな声で答えて、ユキが再び走り出す。


さっきまで私をおぶってくれていたその背中は、なぜだかとても力強くて、そしてとても妙な錯覚だけれどまるで翼が生えているように見えた。





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