不死身の俺を殺してくれ
『今日、仕事が終わった後、何か予定はあるかな?』
昼休みが終わる直前に、八重樫くんに送ったメッセージを確認すると、既読マークは付いているものの返事は、まだ届いてはいなかった。
結局、定時には間に合わず、優の手を借りて残業を終わらせて退勤する。定時からは約一時間ほど過ぎていた。
残業を終えた優は一足早く退勤していた為、更衣室に残されているのは、さくら一人のみだった。自身のロッカーを施錠して、エレベーターへ向かう。
結婚を控えている大事な時期に、優に残業を手伝ってもらい、なんだか悪いことをしてしまったなと思いながら、エレベーターに乗り込もうとして、開かれたドアの前で思わず立ち止まってしまった。
「八重樫くん……」
「あ……さくらさん。お疲れさまです。残業ですか?」
「う、うん。今、終わって帰るところ。八重樫くんは?」
突然の八重樫の登場に少し躊躇いながらも、さくらはエレベーターに乗り込む。八重樫は、さくらの問いに応えるように、自身の携帯をスーツの上着ポケットから取り出した。
「携帯を忘れて取りに戻ってきて、今から帰る予定……だったんですけど、さくらさんのメッセージに今気がついて……。お話があるんですよね? なら、ご飯でも食べに行きませんか?」
「そう、だね……。うん、そうしようかな」
微笑する八重樫にさくらは、ぎこちない笑みを返した。
きっと、八重樫くんは気づいている。
これから私が、何を話そうとしているのか。
それでも、いつも通りに平然を装っている姿に胸が痛んだ。最低だって言われても、罵られても当然だ。でも、彼はそんな言葉を決して言うことはないのだろうと思う。
そして、これが私にとっての戒めになることも。