不死身の俺を殺してくれ
 スーパーでの食材の買い出しを済ませ、帰宅した煉は、先ほど手に入れた貼り紙をテーブルに置き、眺めていた。

 可愛らしい料理のイラストと共に『料理教室』と大きく書かれている紙には、生徒募集中の文字と料理教室の責任者であろう人物の連絡先が記載されている。

 ──責任者、原 紅子《はら べにこ》。

 何処かで聞いたことのあるような名前だが、それが気に掛かり、この紙をわざわざ貰って来た訳ではない。

 最近、夕食のレパートリーに悩んでいた煉は、ふと先日スーパーで目撃した料理教室の貼り紙を思い出した。

 そして、煉が今朝ベランダで思い付いたのは、落ち込んでいるさくらが思わず驚くような料理を作り、振る舞うというものだった。

 プリント紙をよく見ると、飛び込み参加もオーケーと書かれている。

 ……これは、行くしかない。しかし、さくらの了承も無しに勝手に教室へ通ってもいいものか……。いや、流石に駄目だろうな。

 煉は夕食の献立を考えつつ、料理教室勧誘の紙を眺めながら、さくらの帰宅を待ち侘びることにした。



「今日は冷やし肉うどんだ。しかも、少し質の良い牛しゃぶ肉を使用した」

「あ、ありがとう……」

 料理に関しては相変わらず得意満面な煉に、さくらは困り顔で苦笑を溢す。

 煉が食欲不振のさくらでも食べられる料理を、ネットのレシピサイトで検索した結果、今日の夕食は手軽な麺類になってしまった。

 本当ならば、もう少し手の込んだ料理を作る予定だったのだが、午後から気温が急激に上昇し、予定を変更せざる負えなかったのだ。

 手抜きと思われないように、盛り付けはいつもより少し丁寧にしたが、おそらく、さくらはそのことに気が付いてはいない。

 煉は料理教室の件について、いつ話を切り出すべきか少しそわそわとしながら、自身も食卓に着いた。

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