不死身の俺を殺してくれ
「ごちそうさまでした」
さくらは冷やし肉うどんを完食して、両手を合わせた。
食事の挨拶を終えたタイミングを見計らい、煉は料理教室のことを伝えるなら今しかないと、四つ折りにした例の紙を食後の麦茶に添えてさくらに差し出した。
「何? この紙……」
さくらは受け取った紙を不思議そうに眺めながら、ゆっくりと折られた紙を広げていく。
「さくらの許可が得られるならば行きたいと思っているのだが……どうだろうか」
断られたら素直に諦めるしかない。そう思いながら様子を窺っていると、さくらは紙を凝視したまま突然大声を上げた。
「ああっ! これ、私のお母さんの料理教室よ!」
「…………なんだと? そうなのか」
「うん。ここに原紅子って書いてあるでしょ?」
道理で何処かで聞いたことのある名前だと思っていたが、まさか、さくらの母親だったとは……。だが、その事実を知った煉の脳裏には一つ、とある疑問が浮かび上がる。
母親が料理教室を営んでいながら、何故にさくらは料理が出来ないのか、という最もな疑問だった。
まぁ、母親が料理上手だからと言って、娘も料理上手とは限らない訳だが……。さくらの料理の腕は色々と問題があるような気がする。
「そうか……。さくらの母親か……」
煉は腕を組み、小さく呟く。
「そういえば、今年のお正月は帰省出来なかったから一年くらい会ってなかったかも……。連絡するのも忘れてた……」
さくらはバッグに仕舞ったままだった自身の携帯を取り出すと、画面を見つめ母親へ連絡をするべきか悩んでいるようだった。
「母親に連絡するのが気まずいのなら、無理をしなくてもいい」
「気まずいわけじゃないんだけど……。ただ……その……お母さんに会うなら、ちょっと覚悟はして欲しくて……」
「ん? よく解らないが分かった」
さくらから何か不吉な言葉を告げられた気がしたが、きっと気にしない方が良いのだろう。
その日の夜、さくらは珍しく遅くまで起きていたようだった。